中坪淳彦氏ロングインタビュー (2011.1) 後編


 前編に引き続き、中坪淳彦氏ロングインタビューの後編をお送りします。音楽の話から何故かサブカルチャーの話へ……。サブカルチャーにも造詣が深い氏の一面が明らかに!?

注:記事中の敬称は省略させて頂く場合があります。


TTB studio

――では、これからの音楽業界についての考えをお聞かせ頂けるとのことですので、お願いします。

中坪
 CD が売れなくなってきたと聞いて久しいですが、それは再生ツールの移行だけではなく、価値観の多様化も影響していると思います。今は音楽自体が情報データになってきましたから、とりあえず聴ければいい人もいるでしょうね。CD に関しては完全に物質としての魅力を失いましたし、従来の音楽ビジネスはおそらく更に規模縮小傾向に進むと思います。

――長期化する不況の所為だけではないと思いますが、音楽業界は低迷していると言われていますね。

中坪
 ええ。消費者も業界、メディア主導の画一的な商品には魅力を感じなくなってきていますしね。その影で、音楽のライトユーザーが知らないような、コアな愛好家向けのインディー作品が何万枚ものセールスを上げている現状があったりします。そういう作品に共通しているのは、作り手がマイノリティーなスタンスを保てる独自の環境がある事だと感じています。

――中坪さんご自身も TTB studio を主宰されていますが、そういった考えがあるわけですね。

中坪
 はい、作り手にとって環境というのはとても大事だと思っていますから。こういった作家の作品を発表しているメーカーは、メディアに頼る事なく独自の流通を確保し、徹底して購買層を絞り込み、余剰在庫を作らずタイトルごとに結果を吟味して“ユーザーが何を求めているか?”を検証し、結果“少数派の為の良質な作品”を作り続けることが出来たんでしょうね。なので、CD が売れなくなったのではなく、従来型の大手メーカーの方法論が通らなくなってきたのではないですかね。

 あるフランスの ELECTRO 主体のレーベルは、アパレルメーカーが運営をし、音楽レーベルとしても大きな成果を上げています。『ストリートファッション+音楽』のコンセプトで、“総合的なライフスタイルの提案”という複合的なアプローチが他者との差別化を計り成功しているようです。コンテンツビジネスとして継続していく方法は他にも沢山あると思いますよ。利権に囚われず、変化に対応する柔軟な姿勢が必要なんだろうと思います。

――近年トータルプロデュース業が多かったですが、そういった点がより見えてきたということはありますか?

中坪
 「音楽やってるヤツは頑固でわがままだ」という事ですかね(笑)。協調性が無いという事ではなくて。いずれにしても日本の場合、職業音楽家はいろんな面で大変な局面に立たされています。現在のポピュラー音楽に関してはプロ、アマの境界が殆ど無くなっていますからね。ですからメディアが仕掛ける商業音楽よりも、本当に創る事を楽しんでいる、独創性のあるプライベート作品の方が良質ですし、成功の可能性も高いと思っています。
 そして、それらが未来の音楽シーンを高めていくのだろうと考えています。わけわかんないレコードメーカーの上層部もいないですしね(笑)。「本当に音楽が好きだから貧乏しても続ける!」くらいの覚悟が無いと続かないかもしれませんよね。ちなみに自分はいまだ音楽を購入するのは CD、アナログ盤が主です。かさばってしょうがありませんが、そういう意味では配信作品は便利なんでしょうね。

――ご自身の作品も配信されていますが、これは海外リスナー向けといった側面が大きいのでしょうか?

中坪
 海外に向けてというよりは、作ってからリリースするまでのタイムラグがあまり無いという利点が配信の強みだと思っています。CD などのパッケージング商品は流通などの関係で、少なくとも発売に三ヶ月ほど掛かってしまいますから。理想としては完成したその日にお届けしたいですね。

今年の予定は“モロボシ・ダン”に会うこと!?

中坪氏近影

――それでは最後になりますが、今後の活動予定などをお聞かせください。

中坪
 1st の『fish tone』、2nd の『KING JOE』3rd の『NOYAU』から 6 年経ちました。今年は自身のアルバムを出そうと思っていまして、現在 10 曲仕上がっています。昨年、イギリスのファッションブランド「FRED PERRY」の公募曲に選ばれた別名義の楽曲や、MOMO さんの参加楽曲など、とても良い感じのアルバムになりそうです。
 それと TTB としてイベントの計画がありあます。アパレル関係、サロン業界との合同企画で、レーベル独自の“色”を出していければと考えています。

――前回のインタビューのときにも 4th アルバムのことを伺った記憶がありますが(笑)、リリースはいつ頃になりそうですか?

中坪
 いやホント、ごめんなさいねぇ(笑)。前の職場の時もそうだったんだけど、頼まれると自分の事後回しにしちゃう癖があるので、直そうと思ってます。アルバムは夏前にはリリースしたいと思っております。

 あと、全く関係ない話しですが、以前よく 2nd のアルバムタイトル(編註:『KING JOE』)について質問されました。「つぶらな瞳とアンテナのあるアレか?」ですとか、「ぺダンのロボットの事?」などなど色々な憶測を呼んでいまして。

――私は最初に 2nd アルバムタイトルを聞いたとき、真っ先に『ウルトラセブン』に出てくるロボットが頭に思い浮かびましたが、「まさかそれはないよな……」って思った記憶があります。

中坪
 私、幼少期より大の特撮映画好きでして、中でも特に金城哲夫さんという方が書いた、円谷作品黎明期にして全盛期の頃の作品が大好きなんです。察しの通り『ウルトラセブン』に登場するアレの事です。
 いちばん好きなのは“チブル星人”なのですが、アルバムタイトルに“チブル!”じゃなんとなく駄菓子屋で 20 円な感じで少々間抜けな気がしたんで、2 番目に好きな「キングジョーのテーマで作ろう!」と思い銘々しました。いわゆるコンセプトアルバムですね。違いますかね?

――ちょっとコメントに困りますよ(笑)。

 でも結果的に語感の響きも良くて気に入ってるタイトルですね。今考えたら本当に『チブル星人』にしなくて良かったと心から思っています。「fish tone のアルバム第 2 弾『チブル星人』!!」じゃぁちょっとね、足 3 本しかないし。

――あとで中坪さんがサブカル好きと聞いて、「やっぱりそうなんだろうな」とは思っていましたが、本当にそうだと知ったときは驚きました(笑)。でも『チブル星人』はあまりにマニアックすぎると思います(笑)。

中坪
 んですよね(笑)。危なかったです。ですので、あの曲中には 4 機の UFO がセブンを探し飛来するイメージで「セブン~……セブン~」、「battle robot」と、音声合成ソフトでサンプリングしてあります。
 キングジョーはゲッター(編注:ゲッターロボ)やコンバトラー(編注:コンバトラーV)よりも前の合体ロボットの始祖のような存在ですし、当時は UFO が合体してロボットになるのはとっても革新的でしたね、ホントカッコよかった。『2006 September』バージョンでは、わざわざ UFO の飛来音まで追加して、イメージを盛り上げております。機会がございましたら是非これらを踏まえてお聴き下さい。
 ちなみに“キングジョー”の名前の由来は、原作者の“金城哲夫”さんのお名前から付けられているんですって。

――解説ありがとうございます(笑)。私も『ウルトラセブン』は好きなんで、中坪さんがセブン好きと知ったときは意外でしたが、結構嬉しかったですよ(笑)。

ラウンドバーニアン・バイファム
はい、できました!!

中坪
 いや僕も嬉しかったですよ、普段こういう話はあまり出来ないので。セブンに限らず 1960 年代から 1990 年代初頭の特撮、アニメは殆ど守備範囲です。正月もバイファム(編注:『銀河漂流バイファム』)のプラモ作ってましたしね(笑)。こないだはラビドリードッグ(編註:アニメ『装甲騎兵ボトムズ』に登場するロボット)の当時物が手に入ったので作るのが楽しみです。最近は 5 才の甥っ子と帰りマン(編註:『帰ってきたウルトラマン』の略語)の LD-BOX を鑑賞しています。

 自分が何故『ウルトラセブン』に固執するのかというと、成田亨さんの造形美もあるのですが、理由は小学生の頃にあります。当時のクラスメイトから「昨日家に帰ったらウチのお父さんがダンと酒飲んでた……」と、当時 9 歳の少年にとっては夢のように羨ましい話を聞かされてからです(編註:モロボシ・ダン隊員役の森次晃嗣氏は北海道滝川市出身)。それから暫くそいつの家の前を通っては、ダンが来ていないかチェックしていましたね(笑)。
 なので、今年こそは藤沢市で森次さんの経営するレストランの JOLI CHAPEAU に行って念願の“ダンとの対面”を果たしたいと思っています。……こういう活動予定を聞きたかった訳ではないのですね?

――いえいえ(笑)、4th アルバムが予定されているとのことですし、ちょうどオチが付いたところでお時間も無くなってきましたので……。では、最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

中坪
 本年もよろしくお願いいたします、無理せずマイペースで続けていこうと思っています。お互い今年は良い年にしたいですね。

※2011.1 TTB studio にて収録


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