中坪淳彦氏インタビュー
エレクトロミュージックで奏でられる味わい深い音楽。そんな音楽を作り続ける、fish tone こと中坪淳彦氏。先日、自身が主催する TTB studio として初めて東京でのライブを開催し、レーベルとしての活動も順調のようだ。
そんな今がとても充実しているという中坪氏に fishtone blog 担当の mocco 氏と共にお話を伺った。
註:本記事では“音色”は“ねいろ”ではなく、全て“おんしょく”と読みます。
――まず始めに「fish tone」の由来を教えていただきたいのですが、これは今まで明かされていませんよね?
中坪氏
ええ。これはね、ちょっと社外秘だったりするんだけど(笑)。実は私、ツーリングが大好きで、某所へ行ったときに見つけたお店の名前が「魚音(うおね)」で、「うおね」っていう響きがとても良くて、そのまま「fish tone」としました。
――中坪さんが音楽というものを意識したのは、いつ頃でどんな曲だったのでしょうか?
中坪氏
小学校の低学年から洋楽が大好きだったんですよ。後期のビートルズ(The Beatles)や、ドアーズ(The Doors)とか。
その中で特に「ストロベリーフィルズ」だとか、ああいう感じのが好きだったのね。ドアーズだったら「THE END」とか。そう、いちばん最初に買ったレコードはドアーズの「THE END」です。
――洋楽を聴いたきっかけというのはなんだったんですか? 例えばラジオだったり、ご家族の方の影響だったりとか。
中坪氏
子供の頃は上級生と付き合う機会が多かったんです。本来だったらアニメソングとかの年齢なのに、そのお兄ちゃんたちのラジカセからはドアーズとかが流れていたんです。だから、今考えるとそれが音楽との出会いだったのかな。
それからサイケデリックとか、そういうのをずっと聴いていって、中学校の時にジャーマンプログレ、カン(CAN)だとか、クラスター(CLUSTER)とかそういう音楽に出会ったんですよ。そこで“シンセサイザー”っていう単語を初めて知ったんです。
――憧れのミュージシャンはいますか?
中坪氏
自分らしい音を出している人は好きだね。例えるなら……やっぱりクラフトワーク(Kraftwerk)。
――クラフトワークを挙げられる方は結構多いですよね。
中坪氏
うん。クラフトワークで近代音楽の流れが変わった。今でもあんな音をずーっとやってる人なんていないでしょ。“反復するリズムの快感”みたいなのがあるよね。
テクノって反復性の妙みたいなのもあると思うんだけど、それを具現化したのが、'60 年代、'70 年代にクラフトワークがやったあの方法論だと思うんだよね。
それまでシンセサイザーってのはわりと飛び道具的だったりとか、持続音としての楽器っていうのがあったんだけど、彼らがパーカッションだとか、反復するリズムのために機能するダンスミュージックを作った第一人者だと思っているから。すごい衝撃的だったよね。
ガーション・キングズレイ(Gershon Kingsley)だとか「popcorn」という、'70 年代にもシンセサイザーを使ったディスコミュージックはいっぱいあったんだけど、クラフトワークの良さっていうのは、一切の人間性の排除から始まっているっていうのがある。
『The Man Machine』っていうアルバムはまさに“機械人間”だし、「ロボット」っていう曲は全てオートメーションでやってる感じ。ああいう SF に近いところにすごく共感を受けたんだ。
ちょうど『スターウォーズ』とか、'77 年だったかな? その時にちょうどクラフトワークもウケてたからね。まあ、そういう子供だったね。10 歳ちょっと。早熟だったかもしれない。
中学校時代はラジオ工作オタクで、簡単なリズムボックスとか自分で作ってました。基板買ってきて、エッチングして。そういうところにいちばん近い楽器であり、音楽と電子工作を結ぶ、その接点がシンセサイザーだった。
ちなみにそういう趣味もあってか、今自分の持ってるシンセサイザーで全部純正部品のままっていうのはほとんど無いね。
――そういった影響もあって中学生時代に KORG の VC-10 を買っていたんですね。
中坪氏
実はあの VC-10 はじいちゃんの高校入学のお祝いだったんです。いちばん最初に買ったのはアルバイトして買った Roland の SH-09 で、これは未だに使っていまして、大体のベースは今でもその SH-09 で作ってます。何回も壊れたけど、何回も直しました。思い入れがあるし、俺の専属のベーシストだから。楽器とか、そういうマシンに対しては愛着あるんです。
――もう少し掘り下げてお聞きしますと、何台くらいのシンセをどのように使い分けているのですか? また、その中で特に気に入っているシンセは何でしょうか。
中坪氏
鍵盤付きだけで 31 台、ラック音源が 16 台、他にサンプラーや医療用オシレーターがあります。各々、機種や年代が違うので、ベースに長けてるシンセサイザーや、アルペジオに長けてるシンセサイザーとかを、その音が欲しいときに引っ張り出してきて使いますね。
気に入っているのは SH-09 と……そうだね、Moog にはこだわっているね。あと、持っていないけど憧れの音源があって、PPG WAVE 2.3 って音源はいつか欲しいですね。
――音源はそれぞれの持ち味や独特のクセがありますから、なかなか代わりに別の音源というわけにもいきませんよね。いくら便利な機材が世に出ても……。
中坪氏
確かに、今のソフトシンセサイザーっていうのは楽だと思うし、便利だと思うんだけどね。ライン(編註:シンセから出力される音の電気信号)の音楽で電子音なんだけれど、ちょっとわかりづらいけど、電子音の空気感みたいなのを持たせたいというか、暖かみとかね。
ソフトシンセは確かに素晴らしいんだけど、音楽制作に利便性を求めてないんだよね。例えば、インスタントの紅茶やコーヒーにしても、同じような味は出るんだと思うんだけど。でも、丁寧に淹れたものとか時間を掛けたものって、同じような味でも何か違うんだよね、そういうものは電子楽器でもあると思っているから。
自分の愛着のあるマシンとか、信頼しているマシンの音を使いたいっていうのがあるんですよ。極力自分がこういう音を作りたいなって思ったものを出したいから、偶然性とかあまり期待していないんです。自分がある程度こういう音だろうなって作り込めるもの、信頼しているものでしか仕事できないっていうか、そういうヘンなこだわりはあるよね。
だから、今の自分の制作環境って、1980 年代の制作環境と何ら変わっていません。変える必要も無いと思っているし。でも、確かに今の PC でしか出来ない音もあるから、それは PC に頼りますけど。
自分の作っているモノがそんなにたいそうなモノだって言っているわけではないんだけど、なんて言うんだろうな、“時間掛けて作りたい人”かな。
――こだわると、微妙な音の違いなどに満足がいかなくなりますよね。
中坪氏
最近の音楽ってすごいクオリティ高いでしょ? ノイズ入ってなかったりとか(笑)。昔はどうやったらこのノイズを消せるかとか、どうやったらもっと芯のあるベース音を作れるかとか、そういうところから始まるからね。
確かに今の技術の進歩で、誰でもある程度のクオリティのモノは作れるようになったとは思うけれど、これからの音楽家の人たちってのは、圧倒的なイマジネーションがなければ多分作れないんだと思うんだよね。確立的なモノは誰でも作れるような状況になっているから。
そこから頭ひとつ出て行ったり作品に昇華させるためには、制作意図だとかイマジネーションが伝わるものでないといけないと思うんだ。だから、音符を入力するよりもその音色だとか、音場を作る作業工程が非常に長いよね。
そういう事もあって、わりと自分の曲のリスナーの中には、音楽に関わっている人が多いんだよね(笑)。楽器メーカーの人とか。そういう共感して貰えるものがあるのかも知れないね。
ボーカル曲は音色がコントロール出来ないから
――中坪さんの作る曲は小鳥のさえずりが入っていたり、ネイチャーな雰囲気の曲もありますよね。
中坪氏
「自然大好き!」とかそういう事じゃないんですよ。俺が使う水の音とか、小鳥の声ってのはもっと未来的な意味で、そういう擬似的に作り上げた自然とかコロニーだとか、そういうイメージなんだよね。動物の鳴き声をアナログシンセで作るのが好きというのもあるね。
――サンプリング CD などを使うのではなく、自分で音色を作られているんですね。
中坪氏
鳥の声は全部アナログシンセで。サンプリング CD は使わずに、鳥の声は全部自分で作ってる。犬の声はうちの犬の声だけどね(笑)。
音色はゼロから作るからね、俺の場合は。専門的な話だけど、このリードの音は KORG の何々の何番の音だよって言いたくないのね。「これは俺が作った音」だって言いたい。そういうのはあるよね。
――中坪さんがよく使われるストリングスの音色ありますよね。あの独特な音はどのように作られているんでしょうか?
中坪氏
これ社外秘なんだけどね、別に言ってもいいんだけど(笑)。サンプラーの S1000(AKAI) で友達のバイオリン奏者に弾いて貰って録ったんだよね。それと、PROPHET-600 の音を混ぜると、あの音が出来ます。だからサンプラー+アナログシンセ。割合的にはサンプラーの音が 7 で、PROPHET の音が 3。
そして、サンプラーはリバーブ掛けないで、同じチャンネルで鳴らしてる。PROPHET の方のリバーブをかなり深めに掛けると、ああいう深みのある艶のある音になってくるんだよね。
――泣いているようなストリングスなんですよね。実際、今日のライブであの音が鳴ったときは泣けました(笑)。中坪さんの曲では「ここだ!」という時に出てきますよね。
中坪氏
ちょっと来るよね、あの音ね(笑)。あれは俺のストリングスなんだよ、「ここだ!」っていうフレーズやメロディの時に使いたいから、ここいちばんっていう時に使うんだよね。
インストゥルメンタルでやっているからこそ、パーマネントな音色っていうのが必要なんだと思う。俺の中では、このストリングスの音にしても、アルペジオの音にしても、重要なシンガーのポジションなわけ。あれが入らない事には成立しないだろうってのがどっかにあってね。やっぱり入れたい音なんだよね。
――今言われたように中坪さんの曲はインストゥルメンタルが多いですが、今回のミニアルバム『inner Child』などでボーカル曲も作られていますよね。インストゥルメンタルとボーカル曲の違いで注意している点はありますか?
中坪氏
インストゥルメンタルにしても、ボーカル楽曲にしても実は労力はそれほど変わらない。自分が気に入るか気に入らないかという事なわけで。時には自発的に作りたくなる場合もあるけれど。でも多くの場合クライアントがあって要望がなければ作らないかな。とはいえ、ボーカル楽曲に対しては何の障害も抵抗もないよ。ただ、やっぱりシンセサイザー、エレクトロミュージックにこだわっていたいので。
――どちらかというとボーカル曲はあまり好きではないと?
中坪氏
好きじゃないって言うよりも、そうだな……唯一コントロールできない音色だから。すごく気に入った音色を出せるシンガーがいれば使うかも知れない。
でも一時期ロックバンドみたいな事をやっていた時は、自分の声でボーカルを録って作品作りしていたんですよ。自分の声っていうのは自分でしか持っていないものだと思っているので、抵抗は全く無かったな。
制約がなければボーカル楽曲もすごく楽しく作れるんですよ。とはいえ、自分の楽曲と自分の気に入るような音色とは少々路線が違うボーカリストと一緒にやらなきゃならないんだったら、その折衷案っていうのは絶対どこかにあるわけだから探しますね。
例えばテクノでやってくれって言われた曲を、このボーカリストだったらボサノバの方が絶対いいと思った曲は、ジャンル変えてもこっちの方が絶対いいだろって言えるし、言う自信もあるし。できるだけ良い方向で制作していきたいと思ってますよ。
――それでは好きなボーカリストはいないんですか?
中坪氏
いや、いっぱいいるよ。例えばトム・ヨーク(Thom Yorke)とか、デビッド・シルビアン(David Sylvian)とか。
メロディは時代を超えるもの
――今までのお話を総合して行くと、やはり基本はインストゥルメンタルという事ですね。
中坪氏
インストゥルメンタルだね。逆に、そちらから見て fish tone の特徴とか、聴いていて感じるものはあるかな?
――自分自身シンセサイザーが好きなのもあるんで、音色へのこだわりは共感できますね! 色々な曲を聴いているとジャズの要素が入っているところや、シンセサイザー主体でも民族的な部分を取り入れていたり。でも、それでいてハード系なテクノを作ったりしますし、表現の幅が広いですよね。
そこで、トータルで自分なりに感じたところがあるのですが、全部の曲に通じているもの、それが“オシャレ”なんですよ。格好つけていない自然体の“オシャレ”なんですよね。そういうところが中坪さんの曲に魅力を感じる部分ですね。
中坪氏
なるほど。実を言うと、たまにジャズ DJ もやるんですよ。エレクトロミュージックのカウンターカルチャーにあるのが、多分、生楽器のジャズとか、民族音楽だと思うんですけど、何か違う要素を電子音楽に取り込む事によって、またビート自体が変わってくるというかね、新しいものが生まれる気がします。
やっぱり憧れはあるんですね。自分がやっているのがエレクトロミュージックだから、ジャズだったり民族音楽っていうアナログ感があるものには。プライベートでよく聴いてますね。
自分の入り口はエレクトロミュージックだったけれど、実はそれはすごくラッキーな事で、エレクトロミュージックっていろんなものに繋がりやすいんだよね。例えばハウスにしてもそうだし。だから、音楽の入り口がとても良かったので、いろんなジャンルの音楽をまんべんなく聴くようになったね。
だからといって、憧れているからジャズをやるか、ブルースをやるかっていうと、それは俺がもう 30 年近くエレクトロミュージックをやってて、新しいジャンルに手を出すとそれは嘘になってしまうから違うかなと。エレクトロミュージックの範囲の中でエッセンスとして消化してます。
――だから意識して曲に入れる部分もあるし、好きだから自然に曲にも反映されてしまう部分もあるという事ですね。
中坪氏
それはあると思うね。新しい事を常にやっていきたいんで、そういういろんな音楽とミックスするっていうチャレンジはいつもしてるよね。音楽と音楽を合わせたときの化学変化を楽しんでいるっていうのがどっかであるんだよ。
――常にチャレンジ精神で、新しいものを作るという気持ちを持っているという事ですね。
中坪氏
そうだね、そういうのも確かにあるし。でも、過去に自分が作ったモノに対してもすごい愛着はある。だから、最近以前発売した CD を再販したり、いろんな過去の作品をリリースしている。
過去の作品を今の自分が新しくミックスしてリリースする事が多いんだけど、それは自分の作品に責任があるし、その当時はまだ総括出来てなくて、今なら出来るという部分があるんでね。自分が自信を持って制作したものだから、お客さんにも聴いて欲しい、そんな想いがあります。
――それは個人レーベルならではの強みでもありますよね。昔作ったものはそれはそれで完成形だけど、今のイマジネーションを取り入れたもので作りたいからリミックスしたりと。
中坪氏
俺は「これは新しいから、これはもう古いから」って作っているわけではないから。新しいものが全ていいわけではないと思うしね。
過去の自分の作品に対しても、すごく自信を持っているし愛着もあるから、それを新しい形で新しいリスナーに届けるのは、音屋としての義務なのかなと思うわけですよ。ただ、こういう事はやっぱりインディーだから出来る事だと思う。音楽って古いから聴かれなくなったら、それが悪いかっていうとそうじゃないと思ってますよ。
アレンジっていうのは多分時代を反映するものだと思うけど、メロディラインとかってそういう時代を超越しちゃうパワーがあるから。自分はこだわりはあるし凝り性だから、本当はこうして出したかったってのをインディーになった今だからやれてるっていうのもあるんだよね。だから、そういう意味では今はすごく幸せな状況だよね。いちばん生き生きしてやれてるかな。
――それは曲を聴いている側にも伝わってきます。生き生きとしている部分は特に。
中坪氏
本当に何回も言うけど、音楽を「新しいから、古いから」で判断してはいない。自分が作った古い楽曲でも、それは自信を持ってお勧めしたいし。それは、今だからこういう解釈で聴いていただきたいっていう曲なわけだからね。
例えば『REVIVE』っていうアルバムも、元は 2000 年に出した 7 年前の楽曲ではあるんだけど、未だに自分がすごく好きなアルバム(編註:アルバムの『fishtone』)であるし、誇りを持っているから、それを新しい納得した形でリリースする必要があったんだよね。だから、リミックスというより、いらないものを全て削ぎ落とす行為が入っているところがあるから、より当時よりソリッドになっている。
あと、タイミング的にこれからまた新しい事をしようとしてるのもあって、一回ここで自分の fish tone としての音楽活動を総括する必要があると思っているんだよね。本当は今年出す予定だったんだけど、来年出す新譜にはまた新たなチャレンジがある。周りを取り巻く環境も以前とは全て変わって来ているから、今は音楽を作るっていう事に対してすごく前向きでいられる状況なんだよね。
商品ではなく作品を作っている
――4th album の完成度はどのくらいなんですか?
中坪氏
ぶっちゃけ一回全部更にしました。「inner Child」の路線で作っていたんだけど、どこかボーカル楽曲に依存した音作りになってしまってね。確かにあのまま作り続けてもアルバムとしては成立するとは思うんだけど、でもそれは fish tone かと言われたらそうじゃないんだよね。
やっぱり、アナログライクな音で原点回帰したとき、「それはないだろ」って事で一回全部無しにしたの。だからまだ半分も行ってません(笑)。
アルバムって本来はね、「さあ、録音開始」から何ヶ月で出来るものではないと思ってるんだよね。何年ものあいだに作ったものを入れて行くと、それでアルバムになるっていうものだと思っているんですよ。今のメジャーっていうのは、製作期間も短いからどうしても似たような曲になっちゃうし。コンセプトアルバムは別だと思うけど。
ホントに俺の場合は音楽にこだわっているから、自分が納得いかなければいつまで経ってもアルバムが完成してない。この期間で出来たもの、納得いったものを全部ピックアップして行くような形にしていきたいから。インディーならではでしょ?
――期間を決めて無理に作って、曲としては完成しても狙いとは違う曲になってしまうと。そこで中坪さんが以前に言われていた、お客さんを騙したくないという部分に繋がってくると思うのですが。
中坪氏
うん、そうだね。狙いとは違うっていうのは自分を騙している気がするんだ。まず自分も騙さない、もちろんお客さんも騙さない。それが自分の中の音楽に対する誠意だと思っている。
俺はそういう気持ちで活動を続けていて、それをわかっていただいている方に CD を買っていただけるっていうのは、向き合えていられる気持ちになるね。横並びの視線でいいんですよ。お客さんとは身の丈で活動を続けていきたいっていうのもあるしね。
こうやって、いろんなリスナーの人やお客さんと話しするのはすごく楽しいし。そうだね、おすそ分けな気分だよね。俺も今年 41 になって、41 で感じるクールな事、カッコイイ事ってあると思うんだよね。それを若い人たちに「こんなカッコイイ事もあるんだよ」って教えたりとか、逆に教えられたりっていうのはすごく新鮮だと思うしね。そういう感じで横並びでいたいね。
あと、これ特記して欲しいけどプロ意識無いです。
――そうなんですか(笑)?
中坪氏
ないです(笑)。誤解あるかも知れないけど、責任っていう意味で音楽に対してはあるんだけど。ミュージシャンだから、聞き手だからっていう垣根はないという事です。
大人って、どれだけ若い人たちに時間を提供できるかって事だと思うんだ。俺もイッパイイッパイになっている時は話せないときもあるかも知れないけど、どう人と繋がって行くかっていうツールとして音楽を選んでるわけだから。
――ちょっと意地悪な質問をすると、悪い事を言われたらどうしますか(笑)? 例えば「なんなんだあの曲は!」とかお客さんに言われたりしたら。
中坪氏
ごめんなさいって謝るよ(笑)。スマンかったねって。別に俺の音楽が嫌いな人でも仲良くなれるから。
うちに遊びに来る人ですごく仲いいんだけど、俺の音楽嫌いな人なんていっぱいいるから。「俺は演歌しか聴かないから」とかね。俺が音楽活動を続けるというのは、どう社会と繋がって行くかという事もあるし。音楽が全てだとは思ってないわけ。
――こうして中坪さんにお話を伺ってすごいと思ったのが、確固たるポリシーを持っていて、それを曲げないで、突き進んでいますよね。自分の道なんだから妥協しないという。
中坪氏
曲げないね(笑)。確かに一部のユーザーの趣向性を逆手にとって、同じ様な「商品作り」をしていれば儲かるよって言われる事も確かにあるけど、俺、音楽制作をイコール(=)経済として考えてるわけじゃないから。商品じゃなくて作品を作っているわけだからね。
もちろん厳しいシーンっていうのもあるんだよ、経済的にも。だけど、自分が納得して選択してる道だから全然苦痛ではない。いちばん苦痛なのは自分が納得していない事を無理強いされる事だから。やりたくない事はやりたくない。やりたい事をやればいいっていうかね。
音楽に対してはずっとキッズでいたいね。未だにカッコイイ曲聞くと震えるし、ドキドキするし、ワクワクするからね。
変わるけど変わらない、安心感
――これからどんな音楽を作って行きたいと考えていますか?
中坪氏
オンリーワンの存在でいたいよね。その上で昔から自分が大事にしている、“'80 年代のアナログ感”っていうのは引き続き大事にはしていこうと思っているんだけど。多分、システム的な機材とかは何も新しくなっていかないです。
変わって行くのは自分の意識だけで、今までの作品って中に入って行く内側の印象的なものが多かったんだけど、次回作は外に広がって行くベクトルになって行くんじゃないかなと思うね。その音楽がどういうところに繋がって行くかというのがすごく期待しているところでもあるし。
機材とかテクニックよりも、もう少し精神論になってきたりとか、人と関わるための音楽ってものになって行くっていう感じがする。だから、ポップなものもあるし、メチャクチャマニアックなものもあるし、自分が今の時点でベストだと思っているものを全部入れたい。
そんなこんなで、これからもどこかで安心しつつ、どこかで刺激を与えつつも相対的イメージは変わらない音楽を作っていければとは思うよね。変わらないところと変わるべきっていうところはちゃんとわかってるから。安心ってのは多分キーワードだと思うよ。
だから、安心感と言う面では fish tone というイメージを大事にして行かなきゃならないと思っているんだよね。これから名義を使い分けてくるって事が必要になってくるかも知れないけども。
新しいのもスタンダードなのもどちらも自分自身、一生好きな音楽を作って行きますよ。
※2007.11.24 都内にて収録
ライブ後でとても疲れているであろうにも関わらず、そんな素振りは見せずインタビューに応えてくれた中坪氏。氏の音楽に対する考えや、音楽を通じた生き方を時に冗談を交えつつとても楽しそうに語ってくれた。
お話を伺っていて、自身の音楽に対する確固たる信念、自身の曲を聞いてくれるファンを本当に大事にしているという事が終始にわたって感じられた。
今後よりいっそう中坪氏の曲が楽しみになった。これからも今までと変わらず応援していきたいと思う。(あいだ)